おとなはわたしを子どもあつかいばかりして、本当のことを話してくれません。何かを伝えても子どもらしくないとか、かわいそうな子になろうとしていると、勝手にはなしを置き換えて、わたしのはなしをそのままに聞いてもらえません。
だから、伝わるようにおとなの使う言葉をさがすのですが、ことばがみつかっても、おとなに自分のことを伝えられずいらいらしてしまいます。
ことばをみつけるまでに時間がかかりすぎると、おとなは話を聞いてくれません。だから、言葉を見つけるよりも泣いたり怒ったり、暴れたりするほうが早く伝わります。言葉を見つけたころにはもう涙が止まらなくなります。涙が出ていると、おとなはますます話を聞かなくなります。
どうすれば、大人にはなしをきいてもらえますか?どうすれば泣かずに気持ちをことばにできますか?
(ようこさん。5さい)
こんにちは、ようこさん。時間を超えてのお手紙をありがとうございます。
おはなしを聞いてもらいたいのに、大人がまじめにむきあってくれなくて腹立たしい気持ちでいるのですね。伝えた言葉が相手にそのまま届かないことも、いらいらする理由になると思います。いらいらと腹立たしい気持ちがするとしても、何かを伝えたい気持ちをもって言葉を探しているようこさん。とてもしんぼう強く、がんばりやさんだとおもいます。
しんぼう強さやがんばりがあれば、誰かほかのひとが言葉を探すときに待ってあげることができます。言葉を見つけられずに困っている人が気持ちを言葉にするのを手伝ってあげることもできます。できることが増えると思うと、少しうれしくなりませんか?
伝わらない気持ちを何とか言葉にしたいと試し続けるから、たくさんの言葉たちを覚えて使い分けていくことでしょう。本を読んで、本の世界に遊びに行くのは好きでしたよね? 言葉をたくさん使い分けられたなら、文字の中に入っている人の気持ちも感じ取りやすくなります。お友達もたくさん増えてきますよ。
子どもでも、大人でも。相手に伝えたい気持ちがあるのは、当たり前のことだとわたしは思っています。 その人が伝えたいとおもう気持ちは、身体の大きさや年齢、性別の違いなどには全く関係がありません。だから、その時に使える言葉や身ぶり手ぶりの動きを使って、今のようこさんができるやり方で気持ちを伝えればどうでしょうか。じぶんの出来るやり方で、じぶんが今できる目いっぱいのことをしておく。それしかできません。
伝わるかどうかは、相手次第です。相手が「子どもなんて」と思う人であれば、お話をそのまま聞いてくれないかもしれません。それでも、ようこさんが頑張って伝えようとしたならば、そのことはようこさんの伝える力になっていきますよ。
相手に伝わるものは、言葉そのものよりも見た目からくる情報のほうが多いと言います。だから、大人であっても子どもであっても、見た目によってうけとる言葉のイメージが変わってきます。まだ見た目が子どもであるようこさんは、それだけで大人と同じ立場で話すにはハンデをもっているのです。
けれど、そのうちにようこさんも大人になっていきます。大人になった自分にようこさんが会えた時、うれしくなるような大人のひとになってください。 どういった大人のひとになりたいか、今から考えながら、たのしく大人になってくださいね。
そうはいっても、今。大人におはなしを聞いてもらえない気がするのは、がっかりしますね。
ようこさんの近くに、大人におはなしをちゃんと聞いてもらえているおともだちはいますか?
もし、そういったお友達がいるのなら、その人のまねをして大人と話をしてみませんか。もしかしたら、ようこさんが子供の見ためのままなのに大人のやり方をするから、大人が困ってしまって話を聞けなくなっているのかもしれません。ようこさんは嫌に思うかもしれませんが、どうしても聞いてもらいたい話がある時には、子どものふりをしてみてはどうでしょう。
見た目と中身が違っている時、相手は違和感を感じてはなしをなかなか聞いてくれないことが多いです。それは、大人だけの世界でも同じこと。
休日に遊園地へ行くような格好のまま、平日の会社で大人のお話をしても、相手によってはまじめに向き合ってもらえないことがあります。大人の世界では、場所や目的などにあわせて見た目を変えることを大切にしています。話したい内容に合わせたふるまいをみつけることは、これから大人になっても大切なことになってきます。
もしかしたら、そのことをすでに感じ取っているから「泣かないように」がんばっているのではないですか?
感情が表にでてくるときに、涙が出るのは仕方のないことです。とくに子どもの内には涙をあたまで調節する練習時間がそれほど多くないので、うっかり涙はこぼれてしまいます。泣かないようにしようと思えば思うほど、目が泣く準備をはじめます。だから、涙のことは考えなくても大丈夫です。
泣いてしまうのは、なぜ、だめなのでしょう?
気持ちを表すとき、動物たちはしっぽを振ったり耳を動かしたり、身体を使って相手に伝えます。遠くに居る相手には、大きな叫び声を組み合わせて伝えることもあります。人間も動物です。ことばではない伝え方もあります。顔の表情や手の動きも使って伝えてみてはどうでしょうか。
子どものふりをして、大人とはなしをすると意外と話をしてくれるかもしれません。
言葉だけでなく、手の動きや表情でも気持ちは伝わります。
それでも、子どもだからと大人が話をしてくれない気がするなら、ようこさんは違った大人のひとになれるように大きくなってくださいね。
今の年齢だから見えるものもあります。大人になって忘れてしまうことも、あります。
大人になったから見えるものもあります。子どもに戻りたくても戻れなくてさびしいときもあります。
だから、今のままのようこさんで。今できるやり方で、大人とはなしをしてみてくださいね。
相談してくださって、ありがとうございました。
たくさんの言葉を知って自由におはなしできますように。大人に気持ちが伝わりますように。
時間を超えた先で、大きくなったあなたを待っています。
40年後のわたしより。5歳のわたしへ。
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父が亡くなった3歳から2年たって5歳のわたし。保育園で「かわいそうで変わりものな子ども」として扱われるのが嫌だった。
題材を与えられて絵をかくときも、自分の好きな絵しか描きたくなかった。ある日、父の顔を描く時間に園庭のジャングルジムを描きたくてかいたら、外に出された。父の顔を描けないし描きたくないから、ジャングルジムの絵をかいたと思われた。そのことを、わざわざ祖父に電話で報告をされた。
ジャングルジムを描きたかっただけだと主張したけれど、先生たちには伝わらず。祖父に電話をしているのを目の前で見せられたのに、祖父には電話をしていないと先生は言う。絵のことも電話のことも、どちらも腹立たしく、結局、父の顔の絵をかいた。それなのに、先生には祖父の顔だと言われ、その絵が嫌になり。うまく伝えられず泣きながら絵を破って、お昼寝をせず園庭にでていた。
そんな記憶の中にいる、ようこさんから相談のお手紙に応えてみた。