大きな手が画面の向こう側からこちらへと伸びる。手を伸ばしているのは男性。
その写真を見た時、恐怖による体のこわばりと受け入れがたい気持ちからの吐き気が身体を支配した。私の中のトラウマになっている記憶のふたが開いたことに気が付いた。
もう何年もたったはずなのに、いつまでもひっかかってしまう。いまだに忘れることができない気持ちがある。その時に受けた衝撃は、時間とともに薄れてきたと思っていたのに、何かをきっかけにして心の中で大きく膨らむ。こういった感覚が大きいものをトラウマというのではないだろうか。
「男性の大きな手が向くのが怖い」
わたしには大きなトラウマがあった。過去形だと思っていた。けれど、まだ身体の中にあの大きな恐怖と嫌悪感がこびりついていたようだ。心は回復してきたはず、日常で思い出すことは無くなったけれど身体感覚の中には残っている。
私は男性の大きな手が顔の前に近づいてくるのが得意ではない。顔をつかまれ振り回すようにして暴力で日常を支配されそうになったことがある。また、性的な被害にあいかけたときにも、顔をつかんで抑え込まれた。どちらのときも、逃げ出したいのに逃げられない。押さえつけられる、自由を奪われる。もしかしたら命も奪われる。あのときの恐怖感覚が「大きな手のひら」を目の前に見るとよみがえる、もう20年はたっているというのに。
満員電車に乗るのに困る
東京近郊で通勤をすると、もれなく満員列車での通勤がついてくる。スーツ姿の男性がぎっちりと周りに詰め込まれる。身動きが取れないなら、手のひらが私に向くことはない。ただ、まれにつり革を探す男性の大きな手が私の目の前に現れる。真後ろに手を挙げた男性が立つこともある。あれは、かなりの恐怖体験だ。そこにいる人は何もしないと知っているのだけれど、身体が恐怖に震える。目をつぶってやり過ごすのだけれど、なかなか、しんどい。
写真で見ただけでもダメージが来るらしい
男性に対する心理的な憎しみや恐怖は、少しずつ薄れて。今は男性に対する恐怖に身体が震えるときは、ほぼない。そのはずなのに、男性の大きな手がこちらに伸びている写真を見ただけで、これほどがっちりと身体がこわばり恐怖するとは。身体に残された恐怖の大きさに驚く。
トラウマは身体反応への条件付けで起きている?
パブロフの犬の話を聞いたことはあるだろうか。ベルが鳴ると餌が出てくるといった条件付けをされた犬は、餌がなくてもベルが鳴るとよだれをたらす。条件付けによって、自分は望まなくても身体の反応が起きることが実験で示されている。
トラウマは身体に記憶されるという研究がある。心や頭で恐怖などの理由を知ってても、トラウマを感じた状況が目の前に来ると身体が反応してしまうのだという。まるでパブロフの犬のように、身体が反応を記憶してしまうのだ。
トラウマ記憶からの身体反応を解放する
トラウマによる身体の反応も条件反射になってしまっている。だから、その条件を解放することを試みる。身体のどの部分が、どのように反応しているのか。そのことを自分で観察してみる。
私の身体は、 男性の大きな手がこちらに伸びるとこわばる。腹の部分がぎゅっとして、呼吸が浅くなる。吐き気が出るときは、首の周りが固く緊張する。それらの身体反応を解放することで、身体も日常に戻ってくることができる。
腹の部分にある緊張のこわばりをとり、呼吸を深くゆっくりと元に戻す。そして、首周りの筋肉の緊張をほぐす。そうして、身体反応をリセットするのだ。
身体感覚を観察する習慣を日ごろから持っておきたい
日頃、ヨガをしたり瞑想を試したり。体のようすを観察する練習をしておこう。そうすれば、いつもとは違う反応が起きた時に、じぶんを取り戻す感覚を養うことができる。
うっかり、身体が反応してしまったから、これからもう一度、朝の瞑想とストレッチに取り組もう。身体をほぐし、瞑想で心を身体に落ち着かせる。そうして、今日一日を新しく始める。